ロシアのアニメ監督〜時間を超えて

名前は忘れましたがロシアの映像監督、もうすでに高齢です。(70は越えてる)


彼は一つのアニメ作品を、18年間で23分製作しました。
(18年ですから…)


ところが完成までには、まだこの3倍以上の上映時間が必要。
(90分以上のアニメということ)
それはロシアの作家、ゴーリキ作「外套」のアニメ化なのでした。
(あの、トルストイやドストエススキーと並ぶ)


内容は何とも暗くて動きの悪いアニメで、年代物の機械で作られています。
製作スタッフは、彼の奥さんとカメラマンの3人だけ。
手だけで数千のパートに別れた紙人形を使い、ピンセットで一度ずつ動かして撮る。


煩雑な手作業による、膨大な時間の使用。


「作品の計画はあるが、どのように作品化していくかよく判らない」と言う。
「完成は見えないが、やり続けるしかない」「製作の過程に喜びがある」
「こちらの意図を越えて、主人公アナーキが動き出す」などとも言う。


ソ連時代は国が製作費用をまかなってたが今は自費で、スポンサーは見つかりません。
(ディズニーがあるし、だからこそ、というのもあるけど)
賞を取った過去の作品がいくつかあり、その上映などで生活を続けているよう。
このペースでは多分、未完成の遺作になるような気がします。
(もちろん、多くの人数で仕上げても意味がないんだよね)


この作品、以前にテレビで一度見ていたが、忘れていませんでした。
あの主人公アナーキのくたびれて、柔和で淋しげな表情、仕草を思い出しました。
そして、帝政ロシア時代の暗く陰鬱な雰囲気が地味に表現されています。
その中で、アナーキの勤勉さと小心さが巧みに描かれておりました。
(23分間で)


作者が表現するのは恐らく(代弁者として)、そのときの人の思いの素描。
自らの表現方法を駆使し、嘗て心打たれた、物語の再現。


一つの作品に18年とは、なんてゼイタクでバカなんだろうと思う。
(この後死ぬまで続けるだろう)
決して不安がない訳ではない日々の制作生活で、葛藤や苦悩を抱え、
主人公に寄り添い、格闘しているように見えた。


それは決してサイノーとかでなく、何処にでもある質素で、そして何処までも自分で
あり続けたい、死ぬまでやり続けたい、、、だけなのかな。


それが、好きだから?


(知床の番屋のユリ婆さんと、似ているじゃないか、と思ったものだった)